初めて東京に出てきて住んだ場所は松涛。その後、東京中を渡り歩いて、結局、最初に錨を下ろした場所に帰ってきた。現在、渋谷の東武ホテルにお住まいの早坂さんは言う。そして、日々の暮らしのなかで、原宿の街を歩くことも多い。まさに原宿散歩の達人、早坂さんに、この街について語っていただきました。
6年ほど前引っ越しを考えていたとき、本当なら原宿に住むはずだったんです。この辺をいろいろと探しました。なぜ原宿に住もうと思ったか。その大きな理由の一つは「銭湯」。僕は大きいお風呂が好きなんです。結局、いろいろあって原宿に住むことはできませんでしたけどね。 現在、渋谷の東武ホテルに部屋を借りているんですが、もう渋谷の銭湯は全滅してしまった。となると原宿の「桜湯」が一番近いということになる。だから、その行き帰りは自然と原宿を散歩することになるんです。 原宿は飽きることがないし、おもしろい街。表参道なんて日本では珍しいくらいの、歩いているだけでも気持ちのいい道ではないでしょうか。そして原宿は表通りだけでなく、脇にいくつも路地や遊歩道がある。それがうれしいですね。
原宿とのつきあいは古いんです。僕は海軍兵学校の生徒でしたから、東郷神社にある水交会に集まることが多かった。今の仕事を始めてからも、渥美ちゃん(俳優の渥美清さん)がセントラルアパートに住んでいましたから、毎週のように仲間で集まっていた。
それから「瑞穂」という和菓子屋さんにも思い出がある。若山富三郎さんがそこの豆大福をよく食べていた。身体を心配して甘いものは控えた方がいいって言ったら、「この大福食べて死ぬならいい」なんてね。そういば僕が心筋梗塞を煩ったときに、心臓の薬を買いに来た薬局も竹下通りにあった。考えてみれば、どれも原宿との接点なんだよね。
例えば、新宿、銀座・・・、たいていの盛り場はもう人が住んでいません。でも原宿はまだ住んでいる人がいるからいいと思う。人が住んでいない町は嫌いなんです。路地を散歩していると、知らない間に周辺が変わってしまって、取り残されて「ああ、どうしよう」という感じの家が残っている。そういう景色に触れると「まだ“暮らせる”街だな」と思えるんです。
生活の臭いの残った盛り場というかな。有名な同潤会アパートも大通りに面して建っている。パリや香港、世界の街を見ても、みんな盛り場と人の住む場所が近接している。ところが日本では商店街があっても、主人は通いだったりして、夜は人の気配がなくなる場所も増えてきている。そういう意味では原宿は貴重な場所だと思いますよ。
僕は「趣味は電飾」(笑)と言われるくらい、街の明かりやネオンが大好きなんです。そのせいもあって、盛り場に近い場所に住んでいるんです。だから表参道のイルミネーションは大好き。一年中やってほしいくらい。ホテルの自分の部屋にも、数えると電気が12個くらいある。ネオンも飾ってありますよ(笑)。昔、「BAR」って書いたネオンを窓際に飾っていたら、ホテルから「頼むからやめてくれ」と言われてね。 「3階にもバーがあるの」って聞いたお客さんがいたらしい(笑)。
ホテル暮らしも、もう35年になります。東武ホテルには20年。20周年のスピーチを頼まれてね、理由を聞いたら従業員の誰よりも一番古くからいる・・・(笑)。僕が住む周りには、いつも“巷”がある。やっぱり住んでいる周辺はにぎやかで華やかな方が好きなんですね。お酒は飲めないんだけど、夜になったら徘徊できるようなね。
最近の散歩コースで気に入っているのはキャットストリート。昔は川だったところを埋めた場所だから、周囲の佇まいが独特なんです。本来人が通るはずのない場所に道ができたわけだから。トイレにしゃがんでいたら、後ろを人が通るような感じ、なんでしょう。 やっぱり路地がおもしろい。軒には洗濯物が下がっていて本当に映画のセットじゃないか、というくらい古い家が残っていたりね。
でも、ついこの間まで、日本はこうだったんだと気づかせてくれる。つい「がんばってますね」と声をかけたくなります。
こういう発見が原宿散歩のおもしろさだと思います。原宿にはきれいな街並みと、ものすごく生活感に溢れた場所が残っていて同居している。時代とともに変化する、刻々と生きている街がここにあるんです。(談) 
 

 

早坂 暁(はやさか あきら)

1929年 愛媛県出身。
日本大学芸術学部演劇科卒業後、業界紙編集長、出版事業に従事しながら、テレビシナリオを書き始める。
以後、小説、映画シナリオ、戯曲、舞台演出、ドキュメンタリー製作を手がけている。
代表作にテレビは「夢千代日記」「花へんろ」。 映画では84年「天国の駅」84年「空海」96年「きけ、わだつみの声」98年「北京原人」。著書には、「ダウンタウンヒーローズ」等。芸術選奨文部大臣賞他多数数々の受賞歴があり、94年には紫綬褒賞を受賞。

   
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